社労士受験生にとっては手強い「マクロ経済スライド」。

私も独学で社労士試験の勉強をしているとき、初めは何のことやらよく理解できませんでした。
でも基本をおさえれば難しくありません。

令和5年度社会保険労務士試験の選択式試験問題から。
年金改定のルールとマクロ経済スライドの基本をさらっと確認しちゃいましょう。


〔問〕
令和✕年度の年金額改定に用いる物価変動率がプラス0.2%、名目手取り賃金変動率がマイナス0.2%、マクロ経済スライドによるスライド調整率が0.3%、前年度までのマクロ経済スライドの未調整分が0%だった場合、令和✕年度の既裁定者(令和✕年度が68歳到達年度以降である受給権者)の年金額は、前年度から【    】となる。

【    】に入る最も適切な語句は、以下の①~④のうちどれでしょうか?
①0.1%の引下げ
②0.2%の引下げ
③0.5%の引下げ
④据え置き


〔考え方〕

年金額の改定ルールが理解できていれば正答できる問題ですが、私は✖でした。
どう考えればよいのでしょうか。

そもそも年金額の改定ルールとは

年金額の改定は、毎年度「改定率」を改定することによって行います。

そしてこの改定率の改定の方法には、「原則的な改定」と「マクロ経済スライドによる改定」の2種類があります。

さらに受給権者についても、68歳到達年度前の「新規裁定者」と、68歳到達年度以降の「既裁定者」に分けて、それぞれ改定基準を変えています。

原則的な改定

新規裁定者(67歳以下) ⇒ 「名目手取り賃金変動率」に基づいて改定します
既裁定者(68歳以上) ⇒ 「物価変動率」に基づいて改定します

新規裁定者の年金は、支給開始年齢前(64歳)の人たちの賃金ベースで決まり、既裁定者の年金は、物価ベースで決まるわけですね。

ただしこのルールで年金額を改定すると、例えば賃金が上がらないのに物価が上がった場合にどのようなことが起こるでしょうか。

現役世代の賃金は変わらない(つまり年金保険料収入も増えない)のに、68歳以上の既裁定者に支給する年金額だけが増えてしまい、負担と給付のバランスが崩れてしまいます。

そこで、物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回る場合には、受給権者の年齢を問わず全員、名目手取り賃金変動率に基づいて改定されることになっています。

マクロ経済スライドによる改定

この「マクロ経済スライド」は、独学で社労士試験の勉強しされている方にとっては、最大の難所ともいえるのではないでしょうか。 

私も社労士試験の勉強を始めた当初は、全く理解できませんでした。
2年目のときにようやく基本書をしっかり読んで理解したつもりでしたが、それでもこの問題を正答できませんでした。

皆さんには「理解したつもり」ではなく、しっかりと理解していただきたいです!

マクロ経済スライド

物価や賃金が上がっても年金はそれほど上がらない仕組み

原則的な改定ルールでは、物価や賃金が上がると、その分だけ年金額も増えます。
ところが「少子高齢化」や「平均余命の伸び」という年金財政にとってマイナスとなる要素がある場合、年金保険料を納める現役世代が減り、年金をもらう高齢者が増えるため年金財政が厳しくなってしまいます。

そのため以前は、年金保険料の額を増やすことで年金額の水準を確保していました。

しかしこれでは現役世代の負担が大きくなる一方です。

そこで現役世代の負担増を解消するために、新しい年金制度の仕組みが平成16年に導入されました。
そのひとつが、この「マクロ経済スライド」です。

これは、物価や賃金が上がった分だけ年金額を増やすのではなく、少子高齢化と平均余命の伸びというマイナス要素を「スライド調整率」として加味して、年金額の増加を抑える仕組みです。

年金保険料の負担を増やすのではなく、支給する年金額を抑えることで、年金財政の安定を保つのですね。

マクロ経済スライドは賃金や物価が上がったときだけ発動される

ところでこのマクロ経済スライドはいつも発動されるわけではありません。
賃金や物価が上がったときだけ、発動されます。

つまり物価や賃金が下がった時はマクロ経済スライドは発動されず、「原則的な改定」が行われることになります。

そしてマクロ経済スライドが発動される場合も、スライド調整率が全て反映される場合と、一部だけ反映される場合とがあるのです。

たとえば、物価や賃金が上がっているのにスライド調整率を加味した結果、年金額が前年度よりも下がってしまった、ということがないように、この場合は年金額を前年度と同じ額に据え置きます。

このように年金額の下げ幅に下限を設けることで、年金額が大きく下がるのを抑制するわけです。

キャリーオーバーとは

ところで賃金や物価が下がったためにマクロ経済スライドが発動されなかった場合や、発動されても、スライド調整率の一部しか反映されなかった場合、スライド調整率の反映されなかった部分(=「未調整分」)はどうなるのでしょうか。

これは、翌年度にキャリーオーバー、つまり繰り越しします。

つまり前年度の未調整分がある場合は、スライド調整率だけでなくこの未調整分も加味して年金の改定が行われるのです。

これらのことをおさえたうえで、過去問を確認してみましょう。

「令和✕年度は物価変動率がプラス0.2%、名目手取り賃金変動率がマイナス0.2%」
物価変動率が名目手取り賃金変動率を上回っていますので、受給権者の年齢を問わず全員、名目手取り賃金変動率に基づいて改定されることになります。

さらに名目手取り賃金変動率が「マイナス0.2%」と前年度よりも下がっているので、マクロ経済スライドは発動されません。

この「スライド調整率0.3%」は今年度の年金改定には加味せず、未調整分として翌年度にキャリーオーバー(繰り越し)することになりますね。


〔答〕 ②0.2%の引下げ

いかがでしたか?

一度理解してしまえば、コワがるほどのことはない「マクロ経済スライド」。

ぜひ苦手意識を払しょくして、試験で正答できるようにしていただきたいです。

今日もおつかれさまでした( ^^) _旦~~

最後までお読みいただき、ありがとうございました。