本来65歳から支給される老齢年金は、早く受給したり、支給開始を遅らせることができます。

社会保険労務士試験でもよく出題され年金支給の繰上げと繰下げについて、今回は、支給開始を遅らせることで年金額を増やせる「年金支給の繰下げ」について確認しましょう。

※「年金支給の繰上げ」の記事はこちら。
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年金支給の繰上げの注意点

繰下げの要件

年金支給の繰下げは、年金の受給権を取得した日から1年が経過する前に年金の請求をしていない場合に、繰下げの申出ができます。
つまり、受給権発生の時から最低でも1年は繰り下げる必要があります

繰上げと違って、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り下げる必要はありません。

また、特別支給の老齢厚生年金は繰下げができません。(繰上げはOK)

繰下げの増額率

受給権を取得した月から繰下げの申出をした月の前月までの月数に、7/1000をかけた率が増額されます。
つまり、1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されます

繰下げの上限は120カ月(10年)なので、仮に10年繰り下げた場合の増額率は
120カ月✖0.7%=84%
なんと、本来支給される年金額に84%加算された額が、生涯支給されることになるのですね。

でも、メリットばかりではないので要注意です。
繰下げのデメリットは、後半にまとめましたのでご確認ください。

老齢基礎年金の繰下げができない場合

老齢基礎年金は、以下の①または②に該当する方は繰下げができません。

①65歳に達したときに、障害または死亡を支給事由とする年金(障害基礎年金、遺族基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)の受給権者であるとき
②65歳から66歳に達した日までに、障害または死亡を支給事由とする年金(障害基礎年金、遺族基礎年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)の受給権者となったとき

上記の①は、過去に障害年金の受給権者であったとしても、65歳に達したときにその受給権が消滅していれば、繰下げができます。
具体的には障害等級3級以上に該当しなくなってから3年経過していれば、65歳になった時点で障害年金の受給権が消滅しますので、この場合は繰下げができるようになります。

老齢厚生年金の繰下げができない場合

老齢厚生年金は、以下の①または②に該当する方は繰下げができません。

①受給権を取得したとき(通常は65歳に達したとき)に、他の年金(障害厚生年金、遺族厚生年金、遺族基礎年金)の受給権者であるとき
②受給権を取得した日から1年を経過した日まで(通常は65歳から66歳に達した日まで)の間に、他の年金(障害厚生年金、遺族厚生年金、遺族基礎年金)の受給権者となったとき

注意点としては、障害基礎年金だけ受給権があるという場合は、老齢厚生年金の繰下げができるということでしょう。
これは、65歳以上であれば障害基礎年金と老齢厚生年金は併給が可能だからです。

また上記①は、過去に障害年金の受給権者であったとしても、65歳に達したときにその受給権が消滅していれば、繰下げができます。
これは老齢基礎年金の繰下げの場合と同様です。

繰り下げた場合のデメリット

年金を繰り下げれば年金額を増やすことができますが、当然ながらデメリットもあります。
どんなデメリットがあるのか確認をしておきましょう。

1.長生きしないと受け取れる総額が少なくなる

本来の年金支給年齢を65歳として、仮に5年(60カ月)繰り下げて70歳から受け取る場合の損益分岐点は81歳。
つまり、81歳で総支給額が多くなり、これ以降は長生きすればするほどおトクなんですね。
ただしここでは、年金の増額により税金、社会保険料が増えることは考慮していません。
税金、社会保険料が増えた場合には、損益分岐点は81歳より後になります。

2.老齢厚生年金を繰り下げると加給年金がもらえない

老齢厚生年金の受給権者に、扶養している65歳未満の配偶者や年度末年齢が18歳までの子、または障害等級1、2級に該当する20歳未満の子がいる場合、その年金額に「加給年金」が加算されます。
加算される金額は、配偶者を扶養している場合だと約40万円と、かなり高額です。(ただしこの金額は、受給権者の生年月日により異なります。)

老齢厚生年金を繰り下げて支給停止になると、その間は加給年金も支給されません。
また繰下げにより増額されるのは老齢厚生年金だけで、加給年金は増額されません。

加給年金を65歳から受け取るためには、老齢基礎年金だけを繰り下げるという方法もあります。

3.老齢基礎年金を繰り下げると振替加算がもらえない

加給年金は、扶養されている配偶者が65歳になると打ち切られますが、今度は配偶者が受け取る老齢基礎年金に一定額が加算されるようになります。
これが「振替加算」です。
※振替加算が行われるのは、昭和41年4月1日以前に生まれた方だけです。

振替加算が行われるはずの配偶者が、老齢基礎年金を繰り下げて支給停止になると、その間は振替加算も行われません。
また繰下げにより増額されるのは老齢基礎年金だけで、振替加算は増額されません。

振替加算を65歳から受け取るためには、老齢厚生年金だけを繰り下げるという方法もあります。

4.在職定時改定の恩恵を受けられない

厚生年金は要件に該当すれば最大70歳まで加入することになります。
65歳以降も厚生年金に加入して働く場合、毎年8月までの加入期間分が、10月分からの老齢厚生年金に反映されて年金額が増えます。
これが「在職定時改定」です。

以前は65歳以降に厚生年金に加入していても、働いている間は老齢厚生年金の額は増えず、退職のとき、または70歳になって厚生年金被保険者の資格を喪失したときに初めて再計算され、年金額が増えるしくみでした。(=「資格喪失時の改定」)

それが法改正により退職や70歳の資格喪失のときだけでなく、働いている間も毎年少しずつ年金額が増えることになったのです。

ところが老齢厚生年金の繰下げ待機中は、在職定時改定の対象となりません。
もし70歳まで繰り下げた場合、資格喪失時の改定だけが行われることになり、在職定時改定の恩恵を受けられないことになります。

在職定時改定の恩恵を受けるためには、老齢基礎年金だけを繰り下げるという方法もあります。

※老齢厚生年金の繰下げにより増額されるのは、65歳までの加入期間分だけです。
65歳以降の加入期間分は増額されず、本来の額で支給されます。

まとめ

年金繰下げの申出は、年金額が増えるというメリットだけでなく、意外にもデメリットがありますね。

ただし繰下げ支給の方法を工夫することで、デメリットを回避したり、総支給額が少なくなるリスクを減らすことも可能です。

ライフプランにあわせてシミュレーションしてみる必要がありますね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。